「一戸建てかマンションか」を比べるとき、データと現実とのギャップの他に、一戸建てに対するニーズの変化についても知っておくことが大切です。
かつては「利便性重視なら都心や最寄り駅に近いマンション」「のびのび子育てしたいなら郊外の一戸建て」といった棲み分けがありました。「バス便でも広い庭の取れる一戸建てがいい」という志向もあったでしょう。しかし最近は、建売住宅にしても中古一戸建てにしても、特に郊外で、駅に近い物件でないと売れなくなっているのです。
駅から遠い一戸建ての状況をまとめてみましょう。
・郊外の団地型一戸建てのなかでも、バス便などで駅から遠い物件や、坂道を上るなど高低差の大きい物件は、駅や商店・病院などとの行き来が大変で利便性が低いととらえられがちです。
・上記のような環境は、車がないと生活しにくいといえます。つまり、高齢になり運転が不安になったりして車を手放す、または持たない世帯には不向きとなります。
・かつて郊外型一戸建ての持ち主として主流だった子育てファミリーも、駅から遠い物件を避けざるを得ない状況にあります。共働きが多くなり、通勤の行き帰りに保育園に預けたり、手早く買い物したり、時間を節約できる利便性を重視するようになっているからです。
つまり、駅から遠い一戸建ては、おもにその利便性を理由に需要が減っているのです。「自然に近いところでのびのび暮らしたい」「ガーデニングや家庭菜園をしたい」など、郊外型一戸建ての本来の長所が失われたわけではありません。そのような希望を持つ人には、駅から遠い一戸建ては広さの割には価格が抑えられ、買いやすくなっているともいえるわけです。
また、駅に近いエリアで、買い物施設や飲食店も身近にある「都市型戸建て」の需要はむしろ高まっています。都心と郊外の間のミドルエリアでは、こうした一戸建てがマンションと競合する価格帯で取引されることもあります。
都市型一戸建てと同価格帯のマンションを比べると、郊外型のように広い庭付きというわけには行かないケースがほとんどです(前ページ参照)。こうした都市型戸建ての場合、マンションと比べて優位性があるというより、マンションでは満たせない条件のために選ばれることが多いようです。マンションでは満たせない条件とはどんなものでしょうか。
□以前にマンションで上下階の音でトラブルになった経験があるなど、集合住宅に抵抗がある。
□ペットとして大型犬を飼いたい(ペットが飼えるマンションも増えていますが、小型犬までが主流)。
□大型車が必須で、マンションの駐車場に止めにくい、あるいは駐車場利用料が高すぎる。
こうしたケースでは、マンションという選択肢がなくなるわけです。
また、住宅資金の援助をしてくれる親が「一戸建てでないと贈与しない」と条件を付けるなどの事情も見られます。
リフォームや修繕の自由度についてもポイントの一つに挙げられるでしょう。一戸建ては増改築が自由で修繕も自分の裁量です(建ぺい率・容積率いっぱいに使われている一戸建ては、敷地の余裕がないので増築はできません)。マンションは住戸内リフォームに限られ、修繕などは管理組合で決めます。
マンションも一戸建ても、そのマーケットも、またプランなどのハード面も、変化していきます。以前なら、マンションの住戸プランの理想は"戸建て感覚"でした。住戸の独立性や、他の居住者と会いにくいプライバシー性の高さ、専有部の多面採光など、一戸建ての優位性をどう取り入れ、いかに戸建てに近づけるかがテーマになった時期もありました。
しかし最近では、タワーマンションの豪華な共用施設、敷地内オープンスペースのゆとりなど、一戸建てにはまねのできないメリットを持つマンションがあります。また、最近の「都市型戸建て」は、"マンション風の外観"が取り入れられているものも見られます。
マンションと一戸建て、それぞれのエリア、それぞれの価格帯、それぞれの事情(希望やライフスタイル)で判断していくことが必要になっています。
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