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家ココチ vol.9 夫婦のココチ 『光と風が変える住まいとエコ』
光と住まいの関係といえば、明るさばかりが気にされていたように思います。でも、光は熱をももたらすもの。真夏の暑さ対策だけでなく、熱エネルギーを住まいに上手に取り入れることで、心地よく、環境への負荷も少ない住まい実現できるのではないでしょうか。独自の発想で環境共生住宅を設計するのが、建築家の井口浩さん(フィフス・ワールド・アーキテクツ)。樹木と温室、日本の家屋の合理性にも着目した、そのアイデアを伺いました。
Profile
井口浩
(いぐち ひろし)
1960年生まれ。明治大学大学院終了後、建築・都市設計事務所を経て、1995年、(株)井口浩 フィフス・ワールド・アーキテクツ設立。ハウスフォレストリーの考え方に基づき市民で都市を創るNPO法人ミレニアムシティの理事長も務める。

(株)井口浩 フィフス・ワールド・アーキテクツ
東京都練馬区上石神井1-11-12
Tel 03-3929-7108
Kokochi01 デザイン+環境の住宅プラン
東側の鈴木さん一家の住まい。家がすっぽりと温室に包まれており、温室外の庭にはケヤキがそびえる。

2軒の日本家屋と、それをつないで覆うガラスの温室。温室の前には3本のケヤキの高木が天を目指します。温室は土間になっており、真ん中には築山も! 「ハウスフォレストリー幸手」(鈴木邸)の斬新な構成について、設計者の井口浩さんは、「2世帯でどう住まうか、お施主様からの課題にデザインで応えつつ、環境もセットで提案したのがこのプラン」と解説します。

東側の建物は鈴木さん一家の住まい、廊下でつながる西側の建物の2階が子供部屋で、1階は親御さん夫婦の居間になっています。居間の縁側に腰掛けても、築山の緑が緩衝地帯になり、向かいのリビングダイニングが気になりません。温室だけあって光がたっぷり降り注ぎ、外よりも暖か。築山のヤマボウシも元気に育っている様子です。この『光と熱』の効果的な享受こそ、井口さんが建物と同時に設計する『環境』の大きな目的のひとつになっています。

Kokochi02 3層構成で光と熱をコントロール
日本家屋の良さを生かした家屋。2世帯の真ん中には築山が設けられている。

井口さんが環境づくりも含めて行う設計の基本は、『建物+温室+落葉高木』の3層構成。落葉高木が天然のブラインドとして作用し、夏は住まいに木陰をつくり、冬は葉が落ちて日光が燦燦(さんさん)と降り注ぐ。建物を覆うガラスの温室は、半戸外の場所として、外の気候を和らげる役目を果たします。「『ハウスフォレストリー』とは、住宅<HOUSE>と森林地<FORESTRY>の意味を合体させた造語です。アマゾンに暮らすインディオの古代森林農業にヒントを得た発想で、都市と森林のエリアを分けずに、同じ場所に相互両立させようという考え方です」

もうひとつ特徴的なのは、日本家屋の良さを現代に生かしている点でしょう。伝統的な日本の家は、庭、庇(ひさし)、廊下、襖(ふすま)というように、外から内部にいたるまで、様々な仕切りが重なっている多層構造。これらのエレメントが、気候をやんわりと調節するようにできています。「文化性が合理性に結びついています。もともと日本家屋が持つ良さを残し、現在の素材と価値観で再現したい」と井口さん。

温室のテントは、明るさは取り入れつつ熱を遮る優れもの。開け閉めも自由にできる

改めて鈴木邸を見てみましょう。外に植えた11mほどのケヤキは、伐採予定のものを移植。農家を営んでいらっしゃるだけあって、落ち葉の問題は、自然との関わりが深い鈴木さんにとっては気にならないといいます。温室は農業用温室で、安価で性能の優れたもの。鈴木邸では南側半分を覆っています。

鈴木邸‐夏の場合。日射を65%カットする半透明のテントと、ケヤキの木陰で日差しを遮ります。温室のハイサイドライトとトップライトを開放することで、木陰の冷却された風が南から北へと、心地よく抜けていきます。

鈴木邸‐冬の場合。ケヤキが落葉して日差しが温室内の空気を暖めます。日が陰りだしたら、母屋と温室を区切る障子で、温まった空気を室内に封じ込める。外気に面した窓をペアガラスにしたことも相まって、2階は冬も暖房いらず。1階もエアコンは真冬だけの使用で済むそうです。「温室側では外壁の黒も集熱効果を担っています。土間の石も、蓄熱と蒸散作用がある。これも日本文化のエキスです」

もちろん日中の温室内は明るく、室内はむしろ、明るさを制御する場所という存在に。夜になれば梁下(はりした)に隠された間接照明が建物を浮かび上がらせ、器具として見える灯りは象徴的なものだけに絞っています。「これも伝統的な日本の住まいの見え方ですね。落ち着きが生まれます」

梁の下に沿わせるように蛍光灯を設置。夜になると間接照明のようにやわらかく部屋を照らす。
Kokochi03 美しく快適、がエコ住宅のカギ

『ハウスフォレストリー』誕生のきっかけは、10年ほど前に手掛けた軽井沢の家だとか。敷地の樹木を利用し、建物の周囲に空中回廊を設けて部屋を断熱材の間仕切りで仕切る構成。冬に外気が‐15℃の時にも、回廊部分は5℃程度、室内は22℃をキープ。結露も起こらないといいます。

集合住宅でも、ハウスフォレストリーは実践済みです。「落ち葉掃きは管理人が担当しています。賃料は周囲の3割増。環境の良さが収益を生み、住民は環境を享受する。葉が密集した高木は、夏にはアスファルト路上に比べ、約10℃以上もの体感温度差をもたらすので、敷地に入るとひんやりしますよ」

光がもたらす明るさや熱を、住まいにどう生かすのか。建物の工夫だけでなく、樹木を含め、地域で環境を共有する意識こそ、快適でエコな住まいにつながるのでしょう。「継続が難しそうなストイックな方法でなくとも、美しく楽しい住まいによって、環境への意識も受け入れやすくなれば……」と井口さんは話します。「おしゃれに、粋に、遊び心を持って、ね(笑)」

取材・文 甲嶋じゅん子
撮影/Alessio Guarino・吉田誠


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