ノムコムトップ > 家ココチトップ > 家ココチ[Vol.5] シニアのココチ 「和洋折衷を暮らしに上手に取り入れたい」 | ||||||
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ごろんと寝転んだり、時に改まって食事をしたり。西洋化した現代の生活でも、日本人にとって床座の和室は便利で心地よいものです。一部屋は欲しい和室。けれど椅子やテーブルを用いる部屋と、上手に調和させるのは案外難しい。今回は名作住宅に、そのヒントを探ります。巨匠・吉村順三設計の加藤邸は1975年の竣工。日本の伝統を踏まえたモダンなデザインには、今も新鮮な感動と快適な住み心地が生きています。 | ||||||
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日本の伝統とモダニズムの融合を図り、数々の名作住宅を残した建築家・吉村順三。無駄のない合理性から生まれる豊かな空間と独特の落ち着きには、時代を超えた魅力があります。山中湖の山荘・加藤邸もまた、吉村が設計を手がけた傑作のひとつ。和と洋の空間が、見事に溶け合う好例です。 1階は駐車スペースと玄関だけに抑え、居室は2階に集約。南側に水平に大きくとった開口のすべてを、唐松林の瑞々しい緑が包んでいます。この眺望をどこからでも楽しめるように、2階は一続きのワンルーム。ダイニングもリビングも、気持ちを楽に過ごせる開放感があります。 「和室をと希望しました。あとは家具も照明も先生におまかせです」。実家は数奇屋造りだったという加藤さんが望んだ和室は、ワンルームの北側、ちょうど造り付けたソファの背面に設けられています。リビングよりも60cm床レベルを上げているのは、和室の掘りごたつからも景色をまっすぐ望むため。ワンルームの一角に、一段高い6畳の離れを組み込んだような格好です。 |
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床のレベル差こそありますが、LDKと和室の間に違和感はありません。どちらの空間も、個性を強く主張するところがなく、簡素にまとめられているからでしょう。形はシンプルで合理的な正方形のバリエーション。モダンデザインと和室は、この点で相性がいいものです。 不必要な飾りを好まず、少ない材料で豊かな空間をつくる。吉村はそこに、建築の本当の魅力を見出していたといいます。簡素で質素を旨としながら、その空間には人の心を和ませる包容力があり、過ごしてみて気づく計算と心遣いに満ちている。加藤邸ではそれが、和洋の共存をいっそう心地よくさせているマジックでした。 | ||||||
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LDKで過ごすとき、和室で見えるのは、ソファ越しの障子と飾り棚。ソファの後ろの奥行きは、空間に広がりを持たせる余白スペースのようです。そう思って眺めると、柱や障子がつくる直線の構成も、モダンな抽象画に見立てた吉村の遊び心では、と愉快な想像が働きます。見えているのに気にならない。和室が、洋の空間を邪魔していないのです。 一方、和室の掘りごたつに座ってみると、今度はLDKがほとんど見えません。ソファの後ろの飾り棚が和室側では低い腰壁になり、洋の気配を上手に隠しているのです。その計算されつくした寸法に、驚くばかり。傾斜した天井も、日本建築の深い庇の効果をもたらしているのでしょう。視線は南の景色へと、まっすぐに誘導されます。吉村流の大きな分割の障子が、6畳の和室をゆったりとおおらかに見せながらも、そこには本物の和の空気が感じられます。 つながりながら、それぞれの性格をしっかり確立しているふたつの空間。飾り棚が、両者を細部で取り持ちます。しつらえる楽しみだけでなく、グラフィカルに連続して見える視覚的なトリックも。「子供が小さいときは、この台が人形劇の舞台でしたよ(笑)」(加藤さん) 和洋を共存させるとデザインの収拾が難しく、特に和室は曖昧な空間に陥りがち。材料や飾りで差異を図るより、むしろ適度に区切られることで空間の性質が確立し、心地よさや使う喜びが膨らむのかもしれません。 取材・文/甲嶋じゅん子 |