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家ココチ vol.2 父のココチ 『もっとぐっすり眠りたい』
「出張先のホテルのほうがよく眠れる」と話すお父さん。それはきっとベッドの良し悪しだけが理由ではないはずです。日常から少し距離をおいた空間が、心地よさをもたらしているのではないでしょうか。女性たちは”心地よさ”にとても敏感。たとえば女性が大好きなエステティックサロンは、心身ともに安らげる配慮がさまざまに施された場所のひとつ。顧客の2割が男性だというはーバルサロン「カオン豊洲」には、寝室に応用できそうなノウハウがたくさんあります。
Profile
カオン豊洲
天然の植物精油を用いたハーバルサロン。自社農園から毎朝届くフレッシュハーブも取り入れている。
東京都江東区豊洲2-4-9
ららぽーと豊洲2階
Tel 03-6910-1315/営業時間10:00-21:00 無休
村角千亜希
(むらずみ ちあき)
女子美術短期大学卒業後、近田玲子デザイン事務所、ライトデザインを経て、2002年スパン コール設立。人の気持ちに寄り添う灯りを得意とし、住宅や店舗照明で活躍。カオンの照明も担当。
Kokochi01 五感のすべてを満足させる空間
ウェイティングスペースから施術スペースへのプロローグ。「和」のテイストでまとめられたインテリアと照明で心静かに。

草原で快い風に吹かれているような。あるいはせせらぎを聞きながら、木陰で涼んでいるような―― フレッシュハーブや、植物由来の精油を使ったマッサージを提供する「カオン」では、サロン空間にも自然の心地よさを反映させているといいます。サロン事業部部長の篠崎淳子さんによると、そのポイントは、「五感すべてに働きかける要素が整っていること」。

大型商業施設の共用通路から、一歩足を踏み入れたウェイティングスペースには、ハーブのさわやかな香りがたちこめ、サラサラと流れる水の音が響きます。早くもホッとして、重い上着を脱いだような気分に。「香りは脳にダイレクトに届き、懐かしさや気持ちよさを蘇らせます。音は自分の世界に集中させる効果が。館内の音を、音によってマスキング(遮断)する役割もあります」(篠崎さん)。そしていただくハーブティ。すでに嗅覚と聴覚、味覚へのアプローチによる出迎えです。

Kokochi02 視覚の要は、安らげる光
薄地の白布がゆらめく奥がリフレクソロジースペース。横になり下からの光に包み込まれると、不思議な浮遊感。

ヒーリング音楽が低く流れる施術スペースでは、砂浜をイメージした輝く壁やわずかに揺れる薄い布が、やさしい光を受けています。
 「デリケートな感覚の光を心がけた」と話すのは、照明デザイナーの村角千亜希さん。「椅子やベッドなど、家具が視覚へ与える印象は強いものですが、実はそれ以上に存在感があるのは光。リラックスできる空間づくりには、光を上手に脇役にすることです」と解説します。

蚊帳を思わせる薄い布に囲まれたリフレクソロジー(足裏マッサージ)のコーナーは、椅子の背後に低い光がまわっています。座った人を光がきれいに包み込み、見た目にも気持ちよさそう。個室では、ベッド下に入れた間接照明がベッドを浮かび上がらせ、目線よりも上に施した光がふんわりと天井へ。高低差のある光の組み合わせで空間全体が認知され、本能的に安心感が生まれます。中でも、「水平線から立ち昇るサンライズの瞬間」のように、下からの光はリラックス効果が高いといいます。

「寝室に応用するなら、空間認識の光はヘッドボードの陰に照明を仕込み、壁から天井へと光をまわして。低い光はテーブルスタンドを利用します。横になって見上げる天井にはまぶしい照明をなくし、まっさらな天井を見て眠りにつくのが理想的です」(村角さん)。

Kokochi03 光でつくる眠りへのストーリー
ぬくもりのある桐の床と、麻の壁紙で落ち着いたインテリア。調光システムによる光のストーリーがリラックス度を増します。

施術の流れに応じて、室内はゆっくり暗くなり、またゆっくりと明るさがもどる。調光システムによる照度コントロールも繊細なものです。家庭では、調光機能付のスタンドか、白熱電球に利用できる市販の調光機を使って取り入れることが可能に。

こうした照度コントロールは、空間全体としても考えられています。真昼の太陽光のように明るい施設共用部から、ウェイティングスペース、そして照度を押さえた施術スペースへ。明るさを段階的に変化させることで、気持ちも自然に同調し、落ち着いた時間を過ごす準備ができるのです。それは「光でストーリーを組み立てること」。

寝室が灯りのクライマックスだとすると、眠る前には廊下の照明をニッチだけにしてみる、パウダールームは鏡の灯りだけを点すなど、少しずつ眠りへの物語を展開していく、といったことでしょう。ベッドサイドのスタンドを消して、物語はハッピーエンドに。

そして、素足でも冷たさを感じさせない桐の床、肌をソフトに包む天然素材のタオル。セラピストの手の温もりも、触覚を心地よく刺激して、深いリラックスへと誘います。

眠りにつくときさえ、時間に追われるようにベッドにもぐりこむお父さん。ほんのひと時、静かな音楽を聴き、香りを感じ、やさしい光に包まれながら過ごしてみるのはいかがでしょう。質のよい眠りは、自分の感覚に少しだけ丁寧に接することから始まると思うのです。

取材・文/甲嶋じゅん子
撮影/矢野紀行(ナカサアンドパートナーズ)


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