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![9/25 家ココチ[Vol.18] 家族のココチ 「自宅で始める喫茶店」](img/main.jpg) |
「応接間の延長線上にあるおもてなし」。そんな形容がぴったりの喫茶店が、東急池上線久が原駅にほど近い住宅街にあります。一軒家の一部を改装し、菊池發江(ほづえ)さんが60歳から始めた「カフェ・ド・メル」。地下に広がる中庭と明るい陽の差す部屋が訪れる人をゆったりとくつろがせます。店主の菊池さんに、喫茶店を営む喜びをお尋ねしました。
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Profile / プロフィール
- カフェ・ド・メル
- 隠れ家のような喫茶店。おいしいケーキとドリンクが楽しめる。
東京都大田区東嶺町25-19
TEL:03-3751-9625
営業時間:
4~9月11:00~19:00
10~3月11:00~18:00
(土日祝は19:00まで)
定休日:水・第3火曜
※2月と8月は1カ月全休
- 菊池發江(きくち ほづえ)
- カフェ・ド・メルのオーナー。自らキッチンに立ち、接客する。やわらかな人柄が一層お客を和ます。
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Kokochi01 住宅街に応接間のようなカフェ現る
大田区の閑静な住宅街の一角にあるカフェ・ド・メル。小さな看板があるだけで、うっかりすると通り過ぎてしまいそうなほど控えめな佇まいです。それもそのはず、この喫茶店は、元は普通の住居でエントランス部分は車庫でした。
「宣伝も告知も一切しないで、いきなりシャッターを上げてオープンしたんですよ」と店主の菊池發江(ほづえ)さん。何の前触れもなく出現した喫茶店というのも愉快ですが、この店の真の魅力はちょっと不思議な造りにあります。エントランスを入ると数席のテーブルとイスが置かれています。この1階席が店内? いえいえ、ここだけではないのです。その1階席に腰を落ち着けずに奥まで入ると、地下に降りる階段が見えます。実は、この地下のほうがメインのカフェスペースなのです。
「1階だけだと思われて、『誰もいなかったから帰ったわ』というお客様もいらっしゃいます」。それは惜しいことを……。というのも、階段を下りると、あっと嬉しくなるような空間が目の前に広がるからです。
まず、すがすがしい緑に彩られた中庭のオープンテラスがあり、その先には室内楽でも楽しめそうな屋内席が続いています。
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左:地下へ続く階段。左側の看板は、次男が営むカイロプラクティック医院。
右:階段の踊り場から見下ろした中庭のオープンテラス。左手奥に見えるのが屋内席。 |
「当初、1階席はなかったのですが、車椅子に乗っていた母にもお茶を楽しませてあげたくて、1階席を設けました。今では車椅子の方やベビーカーを引いて来られる方にも、気軽に来ていただいています。また、愛犬連れの方にもよくご利用いただいています。カフェ・ド・メルの『メル』は、以前飼っていたうちの犬の名前なんですよ」。
グランドピアノがある地下の室内カフェスペースで、ゆったりと中庭を眺めながらケーキとお茶を楽しむもよし、天窓から光が降り注ぐ1階席で、犬と散歩の途中に休憩するもよし。
「ご近所の方が、お客様をご自宅の玄関からこの店へ直接お連れになることもしばしばです。『近くにいい所があるから、行こう、行こうと言っているの』と。どうぞ、応接間の代わりに使ってくださいと申し上げています」。
Kokochi02 中庭や娯楽室を改装してくつろぎの空間に
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カウンターキッチン。冷蔵庫と製氷機以外は、家庭用のコンロ、レンジなどで十分だそう。 |
店がオープンしたのは2000年、菊池さんが60歳の時でした。この家が競売にかかり、向かいに住んでいた菊池さんが購入。地下の娯楽室を見て、『喫茶店ができそう』とふと思ったことがきっかけでした。
「この辺りはお年寄りが多い地域で、以前からお隣のおばあちゃまに、お夕飯を届けたりしていたんです。世話好きの母に育てられたせいか、お節介焼きなんですよ(笑)。ランチも10人前ほど作って、ご近所の方を招き、召し上がっていただくつもりでした。その計画が、家を買ったことで、この喫茶店に替わった感じですね」。
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かつて倉庫部分だった壁にドアを取り付け、室内への入口スペースに。ケースに並んだケーキがお出迎え。 |
はたして、改装計画がスタート。まずは、1階の車庫に天窓を開け、明るいエントランスに。そこから地下へ下りるには、植木屋さん用の簡易階段しかなかったので、手すりのある階段を設けました。中庭は植えられていた姫沙羅(ひめしゃら)をそのまま生かして、周りに菊池さんが花やハーブなどを植えたそうです。
また、地下の娯楽室にも手を加えました。室内の壁に取り付けられていた巻き上げ式の大型スクリーンやオーディオセットは取り払い、もともとあったカウンターキッチンに、業務用の大型冷蔵庫や製氷機を新たに設置。娯楽室と中庭の間にあった倉庫は、壁を開けてドアを付け、レジやケーキケースを置きました。
「趣味でやっているようなものなので、なかなか採算を合わせるのは厳しいのですが、『ここで楽しく働いているおかげで、毎日元気に過ごせているのだからいいでしょう』と主人には言っています(笑)」。
Kokochi03 多くの出会いと周りの支えで成り立つ店
オープン当初は、カフェの上の住宅部分に次男夫妻が住んでいて、お嫁さんに店を手伝ってもらっていましたが、お子様ができて引っ越したため、今はご近所の奥様に来てもらっています。ケーキを運んできてくれるのは、ご近所の音楽教室の先生です。また、そのケーキは評判のパティシエの品。これも知り合いの方にお願いしたものです。
「皆さんに助けていただいて、この店があるんです。ピアノも実は頂きもの。絵を置かせてくださいという方がいたり、私が昔から集めていた絵や花瓶も役立っています。人もモノもご縁があったとしか思えないですね」。
店を支えるのは、それだけではありません。会計士の長男が店の経理を担当。店の一部では次男がカイロプラクティックを始め、カフェの掃除係をしたり、日が落ちる夕刻以降はボディガード代わりになっています。海外旅行の添乗員である長女も外国から小物を買ってきたりと、家族みんなで店を盛り立てています。
「今にして思えば、なるべくしてなった店だという感があります。以前、父が店に来て『金儲けしようとするな。友達を作れ』と言いましたが、本当にその通りになりました。最高の喜びは、今までの生活では出会えなかった方とも知り合えることですね」。
この店は菊池さんの生きがいであると同時に、コミュニティの役割も果たしています。家族やご近所の方々の出会いの場であり、憩いの場でもあるのはないでしょうか。
最近では、1階の住居部分もホールにして、たまに音楽会や結婚式の二次会などに貸しているとか。良いシェフがいたらレストランにしたいと構想は膨らみます。自宅の応接間に迎えるようなおもてなし。だからこそ、その気取らない雰囲気に人々が集うのかもしれません。セカンドライフの過ごし方は人それぞれですが、菊池さんのような心豊かな暮らしを形にできると素敵ですね。
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まれにコンサートを開くこともある室内席。絵や花瓶などで優美な空間を演出している。 |
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