ノムコムトップ > 家ココチ トップ > 家ココチ[Vol.14] 夫婦のココチ 「茶室に見る、おもてなし」 | |||||||||||
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今回お話を伺ったのは、日本橋にある茶室「茶友倶楽部 空門」のデザインを手掛けられ、ご自身もお茶に通じていらっしゃるインテリアデザイナーの高山不二夫さん。「茶友倶楽部 空門」に見る茶室のしつらいや茶の湯の心に、現代にも生かせるもてなしのポイントを見つけました。 | |||||||||||
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![]() 一服のお茶を差し上げるためだけに用意された空間、茶室。それはとても贅沢(ぜいたく)で特別なことに思われがちですが、本来、茶室は茶の湯の心を大切にする同じ思いを持った人々が集い、体裁や身分を超えて楽しめる空間であり、その多くが身近な材料を使った素朴なものです。 茶室には、ほかにも現代の客間やもてなしの参考になるポイントが隠れています。例えば、部屋の広さ、相手との距離感について見てみましょう。茶室空間には、小さなものは2畳から大きなものは10数畳などと、様々な広さがあります。今回伺った「茶友倶楽部 空門」の広さは3畳です。亭主は炉の横に座り、客は炉を挟んで亭主と向き合う。お互いの距離は京間畳(※)の幅で約95cmほどになります。(※京間畳とは、関西地方で標準使用されてきた畳で、サイズは約1910mm×955mm) このような距離感や茶室の特徴は、現代の住まいでも生かすことができます。 また、お客様をもてなす時間と空間の使い方についても、お茶の世界はちょっとしたヒントを与えてくれます。
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![]() もてなしの空間をつくるには、その空間を構成する様々な要素への工夫も大切です。高山さんがデザインした「茶友倶楽部 空門」の茶室にも、おもしろい工夫が散りばめられています。 まずは、柱や鴨居(かもい)、釣棚(つりだな)。そこに使われているのは、なんと透明なアクリルです。「現代の材料であるアクリルを柱や鴨居などに使うことで、現代のお茶のあり方を提案する場所にしたかった」と高山さんは言います。昔の良さを生かしつつも、そのしきたりや伝統に縛られずに、今生きている人にとって最も心地良い空間にする。
そうした思いから、高山さんは建材だけでなく、現代的なお茶道具やバッグの形の花入れなど、現代を写す独自の工夫を細部にも施します。 「今日の茶碗も白磁の向付(むこうづけ)。向付とは、懐石料理などのお膳で、手前に置くご飯や汁物の器よりも奥(向こう)に置く簡素な食べ物を入れる器のこと。身の丈にあった材料を転用することで、そこに新しい発見や工夫をする楽しみが生まれます」。
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![]() そして最後にもう1つ、ホテルや旅館などにも共通する、もてなしのポイントを紹介しましょう。
「日常とは違う時間と空間をつくること。そのときだけの非日常的な経験から、亭主や客が新しい発見をする。そこから翻って日常に興味を持って豊かに日々を過ごす気持ちが養われ、審美眼が育つのだと思います」。 自宅でお客様を招くときも、玄関からリビングまでのアプローチでは目線に配慮し、分かりやすい場所に飾りをしつらえてみましょう。そうすることで、もてなしを見てもらうことやお客様から配慮に気づいたことを伝えられることが、また1つ時間を共有する喜びとなります。さらに簡単な材料や布で空間を仕切り、部屋の中に別の空間をつくり出すのも、おもしろい趣向になります。 もてなしとは空間だけでなく、軸や花といったしつらい、器やお菓子など、トータルでつくり出す空気感。その基本は、相手の趣味趣向を尊重し、いかに喜んでもらうかという配慮にあります。
相手の喜ぶ顔を思い浮かべながら、「今度は、どんなお菓子にしようか」「今の季節の花は……」などと準備から時間をかけて楽しむ。そうすれば、だんだんとお菓子や花自体にも興味を持つようになり、普段から花や食器を一味違った視点で選ぶ楽しみも増えるでしょう。お茶は、現代のもてなしに大切な心を伝えると同時に、日々の生活を豊かに過ごす気づきをも与えてくれるものなのです。 | |||||||||||
取材・文 甲嶋じゅん子 |