建設コストの高騰とその要因について② 労務費の高騰

近年、建設工事費の上昇が続いています。国土交通省が発表している「建設工事費デフレーター」によると、建設工事費用は2013年以降右肩上がりに推移しており、この10年間で1.2倍に膨らんでいます。東京オリンピック以降も続く堅調な建設需要に加え、昨今の経済情勢や作業員の働き方改革等が建設コストの上昇に影響を及ぼしています。

本レポートでは、「労務費」の現状および高騰の要因について確認していきます。


【サマリー】

●2022年度の公共工事設計労務単価は、過去最高となりました。主要12職種をみると、全国的に不足している運転手や交通誘導員を中心に上昇しています。
●建設就業者数の減少や、高齢化が進んでいます。55歳以上の割合が36%を超える一方、29歳以下は11%と、若手入職者の確保および人材育成が急務となり、今後も働き手確保に向けた労務単価の増加が考えられます。
●2024年4月より、建設現場においても働き方改革により残業時間の上限規制が義務付けられます。また、週休2日制度も推し進められています。これにより、工期の長期化が想定され、現場管理費およびリース費等も上昇する可能性があります。

Ⅱ-Ⅰ.労務単価推移

国土交通省が毎年公表している「公共工事設計労務単価[1]」をみると、2022年度は過去最高の労務単価となりました。単価算出法が大幅に変更となった2013年度と比較すると、39%の上昇です。

国土交通省および建設業団体は、翌年以降も経済状況等を踏まえつつ、継続して賃金上昇に向けた取り組みを進めることとしており、今後も労務単価は上昇する可能性が高いといえます。

主要12職種の単価を2017年度と比較すると、全国平均では14%の上昇です。特に交通誘導員(A・B)[2]、運転手(特殊・一般)[3]は15%を超える上昇となりました。全国的に不足している職種を中心に単価が上昇したと考えられます。



[1] 農林水産省および国土交通省において公共工事の積算に用いる単価、なおこれ以外に事業主が支払う必要費用(現場作業にかかる経費、法定福利費)等が発生する
[2] 交通警備員A:警備業者の警備員で、交通誘導警備業務に従事する交通誘導警備業務にかかわる一級または二級検定合格警備員、交通警備員B:警備業者の警備員で、A以外の交通の誘導に従事するもの
[3] 運転手特殊:重機械の機械および操作について相当程度の技能を有するもの(機械重量3t以上のブルドーザやパワーショベル等の運転・操作)、運転手一般:運転免許を有し機械を運転または操作して作業を行うもの(散水車、つり上げ重量1t未満のホイールクレーン等)

Ⅱ-Ⅱ.労務費高騰の要因

i. 就業者数の減少および高齢化

建設業就業者数は、直近484万人と、3年連続で500万人を下回りました。ピーク時の685万人(1997年)と比較すると、約29%減少しています。年齢別に内訳をみると、55歳以上が約36%を占めている反面、29歳以下は11%と、他産業と比較すると、高齢化がより進んでいます。特に、技能者は60歳以上が25%を占めており、10年後にはこの大半が引退することが考えられるため、若手入職者の確保、育成が喫緊の課題となっています。

直近2022年9月における「建築・土木・測量技術者」の有効求人倍率は6.56倍(全職業1.22倍)と、高い水準となりました。ピーク時の7.5倍(2019年12月[1])からみると、少し落ち着いたようにも見えますが、新規求人倍率は10倍を超えているため、需要は高いといえます。

現在、建設現場においてもICTやDX推進により、生産性の向上や効率化等が図られようとしているものの、これらはすぐに技術者にとって代わるものではないため、このまま就業者数の減少が続けば、労務費の上昇につながる可能性が高いと考えられます。

ii. 働き方改革の推進

「働き方改革関連法」の施行により、建設業界は2024年4月より時間外労働の上限規制が定められます。元来、建設業は、他産業と比較すると労働時間や休日労働が多い業種です。2021年の「残業・休日労働時間」は、全産業の116時間に対し、建設業は165時間にのぼります。また、「所定内労働」は全産業より300時間多い1818時間でした。工期に間に合わせるため、計画的な有給取得等が難しく、休日出勤が多く発生しているといえます。

時間外労働の上限規制の適用にともない、建設現場における週休2日制(4週8閉所)の導入も推し進められています。国土交通省においては、2023年度より原則すべての工事において、週休2日工事として発注することを公表しており、本制度の定着を図る動きがみられます。

ワークライフバランスや人材確保の観点から、働き方改革を推し進めることは必要な反面、技能労働者の6割以上は働いた日数に基づく日給月給制のため、休日が増えることは収入低下に直結します。業界団体では、現収入水準を確保しながらの改革を進めており、これは実質労務費の増加につながるといえます。

また、労働時間の制限や週休2日制にともなう現場閉所数の増加は、工事期間の長期化に直結します。工期が延びることは、仮設費等の増加につながるため、それらも請負金額に反映されてくることが想定されます。

iii. 賃金の引き上げ 

「賃金構造基本統計調査」によると、2012 年の「建設躯体工事従事者・その他の建設従業者」の賃金水準は、全産業より33%低い水準でした。以降、国土交通省等が技能労働者の賃金水準の確保に向けた取り組み等を継続的に行った結果、2021年は23%差となりました。

人材確保の観点等から賃金上昇の継続が不可欠となっており、今後も公共工事を中心に賃金の引き上げが続くと考えられます。

技能者の資格や就業歴等を登録・蓄積する「建設キャリアアップシステム」も、2019年4月より運用が開始されています。技能者の経験やスキルを集約し可視化することで、適正な評価が受けられ、賃金や処遇の向上につながることが考えられます。

iv. 法定福利費の適正化

法定福利費とは、建設会社が従業員のために負担する保険料[2]のことで、法律によって定められているため、企業ごとに加入の有無を判断することや、金額を変更することができないものです。

しかしながら、受注競争の激化等により、適正に費用を計上していない企業や、受注者が極度に低い価格で受注することにより、下請契約先へのしわ寄せが発生し賃金低下につながりやすい等、不適切な運用が見受けられました。これらを受け、2012年度頃から国土交通省等により社会保険未加入問題への対策が進められています。

2017年には、請負代金内訳書に法定福利費を明示することがガイドラインで示され、元請企業はその内容を尊重することが定められました。また、適切な保険に加入していない作業員については、現場入場を認めない取り扱いを求める等、対策の履行強化が図られています。その結果、10年前と比較して社会保険加入率は大きく上昇し、保険の加入率をみると、企業別では84%から99%へ、労働者別では57%から88%へ増加しました。

2020年10月からは、建設業者の社会保険加入が建設業許可・更新の要件とされるほか、技能者単位における社会保険加入確認の厳格化も進んでおり、業界全体で不適格業者の排除や、技能労働者の雇用環境改善の取り組みが行われています。法定福利費は、労務費と比例するため、賃金の上昇とともに、本費用も上昇することが見込まれます。



[1] 東京オリンピック2020の直前
[2] 健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料、雇用保険料、労災保険料、子ども・子育て拠出

Ⅱ-Ⅲ.今後の展望

労務費は、2012年頃から政府が掲げてきた建設就業者への処遇改善等の政策によって上昇しつつあったところに、働き方改革による週休2日制度の推進の影響がさらに加わったといえます。今後も上昇の流れは変わらず、人材確保や技能者の働き方改革等の観点から、さらに上昇することが見込まれます。また、現場の閉所回数が増えることは、工期の長期化により現場管理費等の増加も考えられるため、労務単価以外の上昇にもつながるといえます。

さらに、今後はSDGs等の観点から建物の大規模修繕・リニューアル数も増加する可能性があります。建築物リフォーム・リニューアル調査(国土交通省)によると、2021年度における非住宅建物「改装・改修及び維持・修理」件数は、約320万件と、2016年度から比較すると7%増加しました。リフォームやリニューアルは、新築以上に技能や経験が必要な分野のため、より一層技能者の人員確保・人材育成が大切になるといえます。

提供:法人営業本部 CRE情報部

企業不動産に関するお悩み・ご相談はこちらから

関連記事

ページ上部へ