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不動産コラム
 Vol.105 (H15.11.17)  


日本の貯蓄率が低下している


先日、日経新聞で今年の「経済財政白書」についてのコラムの連載がありました。外国人の受入問題などのテーマにも踏み込んでありましたが、特に「貯蓄率が急速に低下している」という統計が目を引きました。高い貯蓄率が企業の投資を支え、膨大な国債消化を可能にしてきたと言われてきただけに、この動向が注目されます。


今年度の経済財政白書は個人消費が底堅く推移している背景の一つとして、家計の貯蓄率の低下に着目しています。個人消費は、日本のGDPの約6割を占める最も需要な経済指標ですが、近年の経済状況の悪化にも関わらず、個人消費は1998年以降、実質で緩やかに増加を続けていて、特に2001年度以降1%台半ばの増加となっています。

日経新聞は、その事を、貯蓄率の低下に原因がある『背伸び消費』と指摘しているのですが、最近の貯蓄率の推移は右のグラフのように、1990年代初めの14%台から2001年の6.9%にまで急激に低下しているのです(1970年代には20%水準の時期もあリました)。これは貯蓄をしない国民性と言われる米国に限りなく近づいた数字と言えるもので、このまま推移すれば日米逆転も視野に入ってくるとの指摘もあります。


ライフサイクル仮説といわれる考え方によると「家計は短期的な所得水準に合わせて消費水準を決定するのではなく、長期的に期待できる所得を考慮して消費する」となり、今の消費水準の底堅い動きは、長期的に所得の増加を期待しているということになります。しかし、現実には、そんな楽観的なムードでないことは明らかです。

そこで、この貯蓄率低下の背景について、白書の分析も含めた他のいくつかの意見を概括してみますと、以下のような原因が考えられると集約されます。
(1) 少子高齢化の進展(高貯蓄率の若年層が減少し、貯蓄率がマイナスの高齢者が増加する)
(2) 可処分所得の減少(賃金の減少、特にボーナスの減少が影響大。及び利子収入の減少)
(3) 消費の慣性効果 (所得の減少ほどには消費を落とせない現象)
特に、(1)について、高齢者の無職世帯の貯蓄率の推移が2000年の△5.2%から2002年の△19.6%へと落ち込みが激しくなっていることが大きく影響しているようです。

高齢化の進展は家計の貯蓄率を低下させることから、団塊の世代が年金生活に入る時期には国全体として貯蓄不足になるおそれがあるともいわれます。また、団塊の世代以降これから高齢者入りする世代は、老後は子供に頼らない代わりに財産は自分のために使うという傾向が強いという面も無視できません。さらに、可処分所得の低迷も予想されます。収入の低迷に加え、今議論になっている年金問題を含め、税金や社会保険料等の国民負担の増大が避けられない状況です。

貯蓄率の低下が経済に与える影響ですが、「貯蓄率低下=消費性向が上昇する」という点では景気の下支えという効果はあるといわれます。また、日本には1400兆円という個人金融資産があるので安心という議論もありますが、金融資産の多くは高齢者が所有していて、この取崩しが急速に進むのではないかといった予想もあり、経済への投資原資としての国民の貯蓄の減少は少なからず影響があるかも知れません。特に国債価格の下落=長期金利上昇について懸念する意見が多くみられるようです。
※経済財政年次報告、日経新聞、信金中央金庫、朝日新聞、三菱信託銀行等の関連資料を参考にしました。








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