不動産投資の節税・常識vs非常識
2014年からの増税が決まっている相続税と所得税の節税に対する関心が高まっています。誤った知識や不十分な対策指南もはびこっているようです。そこで今回は節税対策の基本と、間違えないための注意点をご紹介いたします。
所得税の節税対策には、築年の古いアパートが有効
不動産を活用した税金対策としては、所得税の節税対策もあります。
ポイントは、減価償却です。不動産などの固定資産の経済的価値が徐々に目減りするものとして1年ごとに計算される減価償却費は、実際には現金としての支出はないものの、賃料収入から差し引くことができる必要経費に計上できます。この金額が大きいと、経理上の不動産所得を赤字にすることができる場合があり、これを給与所得などの他の所得の黒字と損益通算することによって、トータルの所得税を減らすことができるわけです。
よく「投資用物件を購入すれば節税効果がある」というセールストークがありますが、どんな物件でも減価償却による節税効果を最大限発揮できるとは限りません。減価償却費は、物件の構造や築年数によって大きく変わるからです。
図3をご覧ください。築22年の木造アパートと新築マンションで、建物価格はともに3,000万円ですが、減価償却費はまったく異なることがわかります(※)。

※建物の減価償却は、耐用年数に振り分けて毎年同じ金額を計上する「定額法」が現在は原則。建物と設備に分けて、設備については一定割合を減価償却する「定率法」を適用できる場合もあるが、ここでは簡略化のために、全体を定額法で償却するものとする。
木造アパートの法定耐用年数は22年ですから、この物件は既に耐用年数の全部が経過しています。このような場合は、法定耐用年数に0.2をかけた年数が、償却可能な年数となりますので、4年間です。3,000万円を4年で均等に償却すると、年間750万円となります。
一方、新築マンションのほうは法定耐用年数が47年と長くなっています。鉄筋コンクリート造の堅固な建物だからです。新築では47年丸々のこっていますから、年間の償却費は約63万円。建物金額が同じでも、築古アパートに比べて10分の1しかありません。
それぞれについて、土地代2,000万円を含めた総額5,000万円に対する表面利回りを、築古アパートは12%、新築マンションは5%としましょう。すると、アパートの賃料収入は600万円となり、既に減価償却費だけで不動産所得は赤字になります。固定資産税や管理委託費などその他の経費を含めると、数百万円の赤字となり、他の所得と損益通算することによって大きな節税効果が、一定期間期待できます。
これに対して、新築マンションの賃料収入は250万円。減価償却費を引いても200万円近くの不動産所得が残ります。仮に全額ローンで買った場合、借入金利子が経費になりますが、その他の経費を含めても課税所得が黒字になる可能性が高く、賃貸事業だけで所得税が発生してしまいます。節税ができないだけでなく、現金収支のほうでは元金を含めたローン返済の負担が大きいため、手取りが残るどころか持ち出しになる恐れもあります。新築ワンルームマンションでは、こうしたケースが少なくありません。このように同じ金額でも、物件の選び方次第でまったく違う結果が出てしまうのです。
物件の条件だけでなく、投資をする本人の所得状況によっても、状況が異なります。
たとえば、高齢者の方が相続対策及び節税対策といって、区分マンションを気軽に購入するケースが多くあると思いますが、減価償却といった観念だけで捉えると、47年もの償却期間が高齢者の方に果たして必要あるのでしょうか? 年齢を考えると、47年という長期に渡って果実を得られるとは到底考えづらいのです(あくまでも減価償却に限っての話です)。
「投資用物件を買いさえすれば、誰でも節税効果がある」などとは、くれぐれも考えないようにしましょう。物件と人により、大きく変わるのです。
本格的な節税対策には法人化が必要
前述のように、築古アパートは非常に高い節税効果が期待できます。とくに、所得税の最高税率が適用される高額所得層にとっては有効でしょう。ただし、減価償却による節税効果があるのは上記の例では4年間のみ。その時点で売却して別のアパートを取得するなり、買い増すなり、新たな対策を立てる必要があります。
また、築年の古いアパートは、空室の発生や大規模修繕による出費の増大といったリスクも伴います。耐用年数を過ぎたアパートは融資が付つきにくいため、売却の際に購入者が限られるというデメリットもあります。こうしたさまざまな条件をきちんと精査した上で選ぶことも大切です。
より効果的な節税を図るなら、法人化することをおすすめします。以前の『不動産投資は「法人化」で節税と相続対策』という記事でもご紹介したように、現在は「個人増税・法人減税」の傾向が強まり、今後もさらなる法人減税が進められる可能性が高くなっているからです。
これからの節税対策は、一個人で対応できる時代ではなくなりつつあります。専門家のサポートを受けながら、総合的な観点から進める必要があるでしょう。
そもそも、節税をする動機は何でしょうか。いくら稼いでも税金に持っていかれて手取り収入が増えない、という悩みが多いのではないでしょうか。同じ手取り収入を増やすなら、複雑な仕組みを駆使して節税対策に手間をかけるより、より収益性の高い物件に積極的に投資をして資産を増やす、という前向きの対策でも実現できます。むしろそのほうが「王道」ともいえるでしょう。
景気が上向き、2020年東京五輪の開催も決まり、東京都心部の不動産の資産価値が向上する可能性がますます高まっています。つまり、今ならキャピタルゲインを期待することも可能です。もちろん相続税対策は必要ですが、節税に偏ることなく、不動産投資を通して上手に資産防衛を図ることを検討してみてください。
- 【関連記事】
- 不動産投資は「法人化」で節税と相続対策
- 【関連サイト】
- ノムコムプロ不動産投資ガイド「所得税はどのくらいかかるのですか?」
新着記事一覧
1998年から不動産業界に携わり、首都圏のマンション販売・投資用マンションの販売を経験。その後、2005年より主に一棟マンション・ビル等の投資事業用不動産を中心とした仲介業務に従事。
他の投資商品との比較から不動産投資の具体的な投資・運用方法まで、初心者の方にも、経験者の方にも参考になる内容を、わかりやすく丁寧にご説明いたします。