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不動産コラム vol.23
都心回帰の要因を考える
~都心集中と「衣・食・住」・「医・職・充」~ 

ひとの生活の三大要素「衣食住」の衣はユニクロ旋風、食は職で雇用不安、住は資産デフレと社会経済は大きなうねりの中にあるのは間違いありません。こうしたなか、地価下落で値ごろ感が出た住宅価格、住宅取得減税の拡充、低金利といった要因から住宅取得需要が高まりをみせ、既に需要は一巡したと指摘されながらも、都心に立地する新規供給増加と契約率80%前後という好調な売行きなどみられるように、「都心回帰」の傾向が顕著です。今回のブームは都心の企業保有地の放出と地価下落、社宅族の行き先としての需要にも後押しされた格好です。

こうした「都心回帰」現象の効果もあってか、「住民基本台帳人口移動報告」(総務庁)によれば、首都圏、東京圏、東京都、東京都区部、横浜市で、近年、転入超過幅が拡大し、転入超過数の増勢基調が鮮明になっています。特に平成に入って以降減少していた東京都の人口は平成9年から増加に転じ、最近1200万人に達しました。マンション供給の早期化*と実際の入居とのタイムラグを考えると、今後統計上はいっそう拍車がかかることになります。
しかしながら「都心回帰」の背景を、地価下落と最近の首都圏の住宅事情との相互関連だけで説明できるほど、ことはそう簡単ではなさそうです。
マクロ的には見れば東京都区部における転入超過は、人口の都心回帰であるといえますが、70年代高度成長期の都市部への人口集中とは、その内容はだいぶ違うようです。2007年にピーク予想される全国的な人口増勢の鈍化の中で住居の水準向上は、(1)所有か賃貸かの問題から、(2)立地の遠い近い、(3)空間の広い狭い、といった居住選好の多様化や、(4)住宅の高品質化、(5)多彩な間取り、等建物の進化の一断面も、都心回帰という現象形態を促進しているとも解せます。
また、住宅購入世帯の年齢層の変化も見られます。従来の住宅取得の中心であった20代後半から30代前半の層である新規フローだけでなく、50、60歳代のシニア層も回帰の大きな流れになっているといえます(住宅金融公庫融資利用者調査)。世代にかかわりなく全世代が流動化してきたとも分析できます。住宅需要の構造に変化が現れているのです。
このことは何を意味しているのでしょうか。各年代層の「都心回帰」に伴って改めて求められるモノが変化してきたともいえます。定住・持家志向からライフサイクル・スタイルに応じて住むところを変えることに、抵抗感が薄れてきている証左といえます。
この点からは日本の典型的貸家である1Rやアパートの賃料水準や建設立地動向は、それらを主に担う若い世代の動向を反映する点で、従来よりも注意がより必要になります。
他方、住宅だけでなく新興法人も新たな東京都心集中が顕著になっています。ここ1年で上場した情報・IT関係の企業の6割前後が本社を東京都区部に置いている統計もあります。公共事業バブルの破綻の影響やリストラ、IT経済の普及で大半の企業も効率よりも見栄を重視した全国展開の方針は構造的見直しを迫られています。IT化は職場の地域分散を促進させるという説はいつの間にか影を潜め、東京経済と地方経済との格差が拡大している今、独創性に富んだ企業以外は、市場密着度(業界動向、顧客情報収集は大都市のほうが効率的)が高い東京への集中度合いを促進させています。
さらに「東京には何かがあるはずだ」というメンタルな面での可能性と期待も増大化してくると思われます。大都市特有の情報文化の発信から、医療・介護、子育て教育、景観、安全など都市に求められる条件は人それぞれ多種多様でしょうが、従来にない心の充実感、昨今の言葉でいえば「癒し系」の何かを求めている面もある否定できません。
そして経済的機会のあるなしやある種の期待感だけでなく、よくいわれる「人がひとを呼ぶ」集中の法則があるならば、今後ますます東京への集中を加速させていくはずです。
こうしてみますと「都心回帰」というより、寧ろ「都心集中」というべき傾向は、社会経済の構造的変化の底流としての現出といえます。また、私見ですが今後の「都心集中」を考える上では、「衣食住」から「療・場・実」への発想転換と、ビジネス社会と世代を超えた老若男女の個々人との共生がキーワードになると予想します。
※首都圏のマンション発売時期は工期の半分までに供給される割合が平成9 年以降高まり、最近では供給全体の7 割を占める。供給側は地価下落、金利負担による価格競争力への懸念、需要側では都心志向の底堅い需要が要因との分析がある(長谷工総合研究所「CRI2001 年1 月号」)
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