私は、子どものころ父の仕事が嫌いだった。
自営で内装業を営む父は、毎日仕事でめったに休みがない。
父が、仕事から家に帰ってくると、いつも服や手は汚れていて、
私はそれが嫌で仕方なかった。私の父は、クロス張り職人。
友達のお父さんは、公務員、スーツを着て会社へ行くサラリーマン…。
何だか、きれいな仕事に思えてうらやましかった。
年頃になればなるほど、父の存在を遠ざけた。
いつだったかな、高校生のころかな。
父と口喧嘩をしたときに、「お父さんの仕事は汚い!はずかしい!」って
暴言を吐いた私に対して、
父がだまったまま悲しそうな顔をしたことを今でも覚えているよ。
今思えば、あの時の私は、父の仕事を何1つわかっていなかったね。
私の結婚が決まって夫のご両親とお食事会をしたときに、
父が「僕の夢は、娘が家を建てるときに娘の家の内装工事をすることです。」と
言った言葉にはびっくりしたよ。
いつもは口数の少ない父だけど、そんな父の夢を聞いてしまったら、
どんなに父の仕事が嫌いでも、いつかその夢を叶えてあげたいと思うのが娘だよ…。
あれから6年が経ち。
父の60歳という節目の年に、私たち夫婦が家を建てることになり、
内装工事を父にお願いすることになった。
この時、私は、この歳にして始めて父の仕事をする背中を目に焼き付けることとなる。
いつも仕事で汚れて家に帰ってくる父の仕事は、家をきれいに仕上げる仕事だった。
無機質だった石膏ボードにクロスが貼られ、家がどんどん美しく魅せられていく。
そんな父の仕事をする背中を見て、一緒に見学に来ていた私の3歳の娘は、
「じいちゃんの仕事、かっこいいね!家がどんどんきれいになっていくね!
じいちゃん、本当にありがとう。」と父に何度も伝えていた。
子どものころの私が言えなかった言葉だ。
私は、父の仕事が嫌いだったはずなのに、娘が、父を褒めるのがとても嬉しかった。
今更だけど、恥ずかしくて父に直接言えないけど、
「お父さんの仕事、かっこいいね!お父さんの仕事、誇りに思うよ!
今まで本当にごめんなさい。そして、本当にありがとう!」
今日も、父が仕上げてくれた家を娘たちが、元気に走り回って遊んでいるよ。
これから、この家に家族の思い出をいっぱい詰め込んでいくよ。
この家が、私の知らなかった父の背中を教えてくれたね。
ありがとう、私の家。