
ねぇねぇ?写真を見返すと、ケーキを囲んだ写真ばかりだね。
何かあるたびに、みんなでケーキを作っては食べたよね。見た目は悪いのもあるけれど、味は世界一だったよね。
“真っ白だった壁も 今は汚れと傷だらけ”
“走り回っていた場所も 今は寝室になった”
“人気の椅子の取り合いも 今は無条件に座れる”
“テレビの前の取り合いも 今は父と母が肩を並べている”
“三人でひとつのだった狭い部屋も 今は広くて私だけ”
“朝の慌しい風景も 今はのんびりと過ぎている”
“お風呂の順番の喧嘩なんて 今はもうない”
“冷蔵庫の中の揉め事も 今はもうする事もない”
“破っては張り替えての障子も 今は綺麗のまま”
“おじぃちゃんとおばぁちゃんの声も 今はもう聞こえてこない”
産まれた時からここにいたのも 最後までここに残ったのも私だけ。
たくさんの思いが詰まったこの家とも、あと少しでお別れの時が来るね。
一番長くお世話になった私は、キレイに全部片付けて、笑顔でお別れをするという役割がある。
寂しくなんかない。って言ったら大きな嘘になるけど、父が安堵にも似た表情で発した『三人とも大人になるまで、ここで育てたから良かった。』
その言葉が全てだったよ。
楽しかった風景の方がたくさん脳裏に浮かぶけれど、その何倍も何十倍もきっと大変なことがあったよね。
どんな事があったって、帰る場所がここにあったこと。
どんな事が起きたって、笑顔になることが出来たこと。
どんな事になったって、安心出来る場所があったこと。
この家で無限の素敵な心を学んだこと。『感謝』のひとことです。
長い間、お疲れ様。
そして何より、みんなを守ってくれてどうもありがとう。
カタチには残らないけど・・・
この家でのたくさんの素敵な想い出は、私の人生の財産だよ。
ねぇねぇ?大人になった今でも、
あのケーキを越える味に私は出会ってないよ。
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