私的空間 [バックナンバー] >私的空間[vol.8] 観世喜正さん

生まれた時から能舞台がわが家 自然に身についた職住一体型の暮らし

観世さんは舞台と指導のほか、海外公演や外国の演劇学校の講師、大河ドラマの能のシーンの演技指導など、多方面に活躍していらっしゃいます。活動の拠点であり、生家でもある矢来能楽堂にお訪ねして、能の魅力と普及への意欲、ライフスタイルなどを伺いました。職住接近で、能楽堂まで徒歩1分の事務所兼住まいは、半年前に越したばかり…。

活動のベースである矢来能楽堂の間近に住む

門を入って左手が実家で、いまも両親が住んでおりますが、結婚して家を出まして。といっても、ここから歩いて10分ほどのマンションでしたけど。

ただ、舞台も稽古もこの能楽堂がホームベースですし、事務や雑用なども増えてきて、やはり近い方がいいだろうと探していたら、去年の夏、たまたま幸運なことにななめ前の一軒家が空いたんです。1階を事務所、2階を住居にして、線引きができるので便利になりましたね。いずれは、3階を稽古場にしようと思っています。

この能楽堂は昭和27年に祖父が建てたもので、普段は稽古場であり住居なんです。観世流では、お弟子さんは5年間、住み込みの修業をして、研修会や試験を受けてプロとして認定されます。修行中はここで寝起きして、大きな催しのあるときは片づけて、お座敷の畳をひっくり返して板敷きにしたり、升席(ますせき)を作ったり、冬は火鉢を運んで“晴れ”の日に備えたんですよ。能の世界は、本来、職住一体なんです。

この界隈しか住んだことがないので比べにくいですが、私は寂しい所もビルが林立する所も苦手ですね。ここは住宅も店もオフィスも混在していて、ちょうどいいバランスでしょう。たまにふらりと夜の散歩に出て、新しい店をひやかしたりするのも楽しいですよ。

猫と大画面テレビとマッサージ機の待つ家

観世さんの能舞台で疲れた体を癒してくれるという、ご自慢のマッサージチェア。

観世さんの能舞台で疲れた体を癒してくれるという、ご自慢のマッサージチェア。

能にはシテ方、ワキ方、狂言方、囃子(はやし)方と4つのパートがあり、私はシテ方です。シテ方に属する男役、女役、神様……百歳の老女などもやりますけど、全部こなせないといけないんですね。私は身長が178cmなんですが、能楽師としては多少の不便もありまして。安宅の弁慶みたいに大柄な役はともかく、楚々(そそ)とした女性も演じなければなりません。体格に関わらず、それぞれの役を演じきること、これは今後の課題ですね。

身長とは無関係かもしれませんが、能は重い装束と面をつけて特殊な構えをしますので、足腰や背筋が激しく凝るんです。マッサージから針からお灸から一通り試したんですが、意を決して最新鋭のマッサージ機を購入したんです。どの職業の方も辛い部分はあるでしょうし、昔の人に叱られそうですけど、文明の利器は本当に有り難いなあと。

最近は意識的に“ふぬけ”になる時間も作っています。いまの家に引っ越して、大画面のテレビと映像機器を揃えたら、DVDで見る自分の舞台のチェックも含めて、猫みたいに座って映像を観ることが多くなりました。飼猫の福助も膝に乗ってきて、一緒にくつろいでいます。

いつでも能を観ていただける環境を作りたい

DVDで、ご自分の舞台チェックなどもされるという大型テレビ。このテレビの前は観世さんのくつろぎ空間でもある。

DVDで、ご自分の舞台チェックなどもされるという大型テレビ。このテレビの前は観世さんのくつろぎ空間でもある。

昨年、NHKの大河ドラマ『功名が辻』で、能のシーンをふんだんに使いたいが、吹き替えではなく役者さんに直接指導してほしいというお話をいただきました。テレビと能の速度は、本当はなかなか合わないのですが、短時間でどう凝縮させてアピールするか、できる範囲で知恵を絞ってやらせていただき、いい経験になりました。

我々の業界も昔はタブーが多かったのですが、最近はどんどんやりなさいと変わってきています。ただ、なぜ能なのか、なぜ能でなくてはいけないのかを考えろと突きつけられてはいます。伝統文化というものは、大事な部分は継承しながら、新しいことにもチャレンジしていく、そのバランスが大切なんでしょうね。

とにかく観て、感じて、好きになっていただかなくては始まりません。難しそう、長そう、怖そうと言う人には解りやすい公演を工夫したり、見識が高まってくれば、内面的にも充実した舞台を観せたいですし、いつでも能を観てもらえる環境を作りたいんですよ。

隔年でシンガポールの演劇学校でも指導していますが、国内だけでなく外国にもアピールしていきたいです。ヨーロッパ公演もいつも席が取れないほどで、逆輸入もあるでしょうね。おかげさまで、いまは能に限らず日本文化に興味を持つ方が驚くほど増えています。突破口が開き、裾野も広がって、観て感じていただくうちに、継承してきた文化がじわじわと広まっていけばいいなと思っています。

 




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観世喜正さんサイン入り
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